金融活動作業部会(FATF)が、犯罪者によるステーブルコインの不正利用に関連する違法資金リスクを指摘する新たな報告書を3月3日に公表した。
FATFが公開した「ステーブルコインとアンホステッドウォレット(Stablecoins and Unhosted Wallets)」に関する報告書では、特にアンホステッドウォレットを利用したP2P取引を通じた違法資金移動のリスクが強調されており、各国政府や民間事業者に対し金融システムの健全性を守るための対策強化を求めている。
報告書によると、ステーブルコインは近年急速に拡大しており、2025年半ば時点で250以上が流通し、時価総額は3,000億ドル(約47兆1,315億円)を超えているという。ブロックチェーン分析企業のチェイナリシス(Chainalysis)が発表したデータでは、2025年における違法な暗号資産取引の取引量のうち、約84%がステーブルコインで占められていたとされる。こうした取引の多くではアンホステッドウォレットが利用され、資金の出所を隠すための複雑な資金洗浄手法が用いられているという。
また同報告書では、ステーブルコインの価格安定性や高い流動性、ブロックチェーン間の相互運用性といった特徴が正当な用途を支える一方で、犯罪者にとっても利用しやすい要因となっていると指摘。マネーロンダリングやテロ資金供与に加え、国家関与のサイバー犯罪にも利用されている可能性があるとした。
具体的には、北朝鮮(DPRK)関連のサイバー犯罪グループがランサムウェアやフィッシングなどのサイバー犯罪で得た資金の洗浄にステーブルコインを利用しているほか、イラン関連の主体が拡散金融にステーブルコインを活用している事例が確認されているという。
さらに報告書では、アンホステッドウォレットを介したP2P取引は、規制対象となる暗号資産サービスプロバイダー(VASP)や金融機関が関与しないため、規制当局による監視が難しい点が脆弱性として挙げられている。また、ステーブルコイン発行体にとってクロスチェーン取引の管理が困難な場合があり、こうした取引がマネーロンダリング対策の枠外となる可能性も指摘された。
FATFは、ステーブルコインのエコシステムに特化した規制枠組みを導入している国は依然として限られているとしつつも、各国に対してステーブルコインに関連するマネーロンダリングやテロ資金供与、拡散金融のリスクを認識し、それに見合った対策を講じる必要があると強調している。
また各国に対しては、FATFが勧告する「勧告15」を完全に実施し、ステーブルコイン発行体や仲介するVASP、金融機関などが明確なマネーロンダリング対策(AML)およびテロ資金対策(CFT)の義務の対象となるよう求めた。
さらに報告書では、ステーブルコインの不正利用を防ぐための具体的な取り組みとして、発行体に対しリスクベースの技術的・ガバナンス管理を導入することを推奨。例えば、二次市場におけるステーブルコインの凍結や焼却、回収機能の導入、償還時の顧客確認(KYC)、スマートコントラクトによる取引制御などが挙げられている。
また監督当局や法執行機関においても、スマートコントラクトの仕組みやクロスチェーン取引、ブロックチェーン分析ツールに関する専門知識を強化する必要があると指摘。加えて、国際的な情報共有や迅速な対応を可能にする協力体制の整備、官民連携によるリスク情報の共有なども重要な取り組みとして示された。
なお同報告書は、FATFグローバルネットワークから提出された50件以上の資料をもとに作成されたもので、ブロックチェーン分析技術などを活用してステーブルコインを利用した違法活動を検知・阻止した事例も紹介されている。
なおチェイナリシスが1月9日に発表した「暗号資産犯罪レポート2026(Crypto Crime Report 2026)」によると、2025年に違法アドレスが受け取った暗号資産は少なくとも1,540億ドルに達し、制裁対象主体の活動拡大などを背景に前年比で大幅に増加したとされる。一方で、暗号資産全体の取引量に占める違法取引の割合は依然として1%未満にとどまっており、市場の拡大とともに絶対額が増加している構造も指摘されている。
同レポートでは、ステーブルコインの価格安定性や高い流動性、国境を越えた送金の容易さが、犯罪者や制裁対象主体にとっても利用しやすい要因となっていると分析されている。
参考:発表・レポート
画像:PIXTA


