● 最大の遅延要因は、ステーブルコインの利回り(yield)を巡る銀行業界と暗号資産業界の対立。
● 利回り付きステーブルコインの急拡大が、金融政策と預金流出リスクの政治問題に直結している。
● 成立すれば規制不確実性は縮小するが、短期的なボラティリティと事業モデル再編は避けられない。
Ripple CEOのBrad Garlinghouseは、米国の暗号資産市場構造法制について「4月末までに通る可能性は90%」と述べたと報じられています。CLARITY Act(Digital Asset Market Clarity Act)は、暗号資産の中でも特に「現物(スポット)」領域を中心に、SECとCFTCの管轄の線引き、取引所やブローカー等の登録枠組み、顧客資産の保護(分別管理・カストディ要件)、AML/KYCの明文化などを通じて、“米国で取引できるルール”を整備することを目的とした法案です。市場が長年抱えてきた「何が証券で、何がコモディティなのか」「現物市場を誰が監督するのか」という曖昧さを、法律の言葉で再定義しようとする点が“clarity”の本質です。
しかし、成立が想定よりも時間を要している最大の要因は、上院銀行委員会で予定されていたH.R.3633の審議が「POSTPONED」となり、マークアップが停止している点にあります。その背景にあるのが、ステーブルコインの「利回り/報酬(yield)」をどこまで認めるのかを巡る銀行業界と暗号資産業界の対立です。
現在のステーブルコインは、単なるドルの代替決済手段ではありません。利回りを組み込んだ設計が急増しており、添付のチャート(ERC-20ベースの利回り付きステーブル総供給量)からも、2024年後半以降に供給が急拡大し、2025年には一時100億単位に迫る水準まで成長、その後も高水準で推移していることが確認できます。つまりステーブルコインは、オンチェーン金融の中核インフラへと進化しつつあるのが実態です。日本でも円建てステーブルコイン、特にJPYCへの期待が高まりつつある点は、グローバルな制度議論と無関係ではありません。
この成長が、政治・金融の論点を直撃しています。GENIUS Actは「発行体による利息付与」を禁じる一方で、取引所など第三者がキャンペーンやリワードとして報酬を付与する余地が残ると銀行側は解釈し、追加規制を求めています。預金がステーブルコインへ流出すれば、銀行の資金調達や貸出機能に影響を及ぼしかねないためです。
暗号資産側は「発行体による利息」と「ユーザー向け還元プログラム」は分けて考えるべきだと主張しますが、銀行側は実質的な利回り提供の拡大を警戒しています。この論点で妥協が成立しない限り、上院銀行委員会の再稼働は難しく、CLARITY Act全体の前進も鈍化します。最近、取引所が“USDCを保有するとBTCでリワードを付与する”といった設計を打ち出しているのは、この問題がまさに現在進行形であることを象徴しています。
さらに上院では、農業委員会(CFTC所管)側が別テキストを前進させており、最終的には委員会ごとの文案を統合し、上下院で調整する工程が必要になります。単一法案が一直線に進む構造ではなく、複数パッケージの合意形成が前提であるため、(1)利回り論点の妥協、(2)上院内の管轄調整、(3)本会議での超党派票の確保、(4)州当局の権限(preemption)やDeFiの扱いといった修正論点の整理という複数の関門が連鎖します。
Garlinghouseの「90%」という発言は期待の高まりを示すものの、立法プロセスは常に確率が揺れ動くものです。短期的なオッズの変化そのものが、いま市場が直面している不確実性の表れでもあります。
では、成立すると暗号資産市場に何が起きるのか。短期的には「規制不確実性プレミアム」の圧縮が焦点です。非証券の現物市場に監督ギャップがある状態では、機関投資家は参加してもリスク見積りが大きくなり、結果として流動性が細りやすい。SECとCFTCの線引き、登録枠組み、顧客資産保護、AML/KYCの制度化が進めば、米国市場で“ルールに基づくアクセス”が増える期待が高まり、価格・出来高・ボラティリティに再評価が入り得ます。一方で中長期では、登録・開示・分別管理・カストディ要件・広告規制などのコスト増により、上場基準の厳格化や利回り型サービスの再編が進む可能性があります。制度化は追い風であると同時に、ビジネスモデルの選別を加速させる、という二面性を持ちます。
そして重要なのは、「明確化」は段階的に効いてくる点です。成立ニュースがゴールではなく、ルールメイキングを経て発効し、登録・監督が実務として回り始めるまでタイムラグが生まれます。市場インパクトは「成立材料の短期」→「規則案・最終規則の具体化」→「登録・運用開始」の順に波及し、同じニュースでもフェーズごとに反応の仕方が変わります。
いま注目すべき体温計はシンプルです。上院銀行委の再開日程、yield論点の妥協が条文化された兆候、統合テキストの公表。市場側は、主要銘柄の出来高とオプションIV、ステーブル供給(特に利回り付きステーブルの伸び)の継続性、取引所のリワード設計の変更、そして米国オンショアでの現物フロー改善を同時に追うべき局面です。制度が近づくほど、相場は「ナラティブ」より「条文とフロー」に反応します。
オンチェーン指標の見方
利回り付きステーブルコインの総供給量は、オンチェーン上の“ドル需要+利回り需要”を示す指標であり、拡大はリスク回避と資金待機の増加を意味します。2024年後半から急増していることは、単なる決済用途を超え、オンチェーン上での準マネーマーケット機能が強まっていることを示唆します。価格上昇前に供給が先行拡大する局面は“ドライパウダーの蓄積”と読めるため、流動性循環の先行指標として注目されます。
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